涼しい居場所で夏を楽しむ
家の中に涼風が通り抜ける心地良い瞬間。障子や引き戸を開けて、土間や中庭、吹抜け、
縁側・ウッドデッキで「端居(はしい)」を楽しみませんか。「端居」とは夏の季語で、縁側など
風通しの良い家の端に居ることをいいます。無垢の縁板の感触を素足で味わい、庭を眺めたり
読書をしたり家仕事をこなしながら端居を楽しむ…。
昔ながらの縁側で過ごす、この贅沢なひとときに憧れる人は多いのではないでしょうか。
縁側は「昭和」を描いた映画やドラマに欠かせないスポットです。風鈴や蚊とり線香がゆれる縁側で、スイカをほおばる
子どもたち。お風呂で汗を流したあと、ビールで夕涼みするお父さん。実家のくつろぎシーンによく登場するのが縁側。
いま、懐かしい縁側を取り戻したいという人が増えています。
写真は、昭和30年頃に建てられた木の家を「雨楽な家」のテイストでリノベーションした事例です。
縁側も昭和から令和へとバージョンアップ。
床に杉の厚板を張った縁側は、木製建具のガラス越しにやさしい陽光が入り、森林浴もできる日向ぼっこの特等席です。
縁側は日本家屋ならではのなごみ空間。
チェアを置いて趣味の部屋のように使うのもおすすめです。
外の戸を開け閉めすることで、風雨や光など屋外とのつながり方を調整でき、四季の変化を楽しめます。
わずかなスペースでありながら、さまざまに活かせる縁側。外と内をつなぐ縁側は、日向ぼっこをしながら家族のコミュニケーションを深め、暮らしにうるおいをもたらしてくれます。
縁側には建物の内側・外側だけでなく様々な種類や名称があります。
憧れの縁側がどんな名前か知っておくと情報を集めたり、家づくりの希望を伝える際にも役立ちます。
●内縁(うちえん)
建物の内側の縁側。床面積に含まれる
・広縁(ひろえん) 約120cm以上の幅の広い内縁
・入側縁(いりがわえん) 側柱と入側柱の間の内縁
・縁座敷(えんざしき) 畳を敷いた内縁
●外縁(そとえん)
建物の外側の縁側。床面積に含まれない
・濡れ縁(ぬれえん) 建物の外側の縁側
・簀子縁(すのこえん)
雨水が切れるように隙間をあけて縁板を張った外縁
●榑縁(くれえん)
建物に対して「平行」に縁板を張った縁側
●木口縁(こぐちえん)・切り目縁(きりめえん)
建物に対して「垂直」に縁板を張った縁側
その他にも…
・落ち縁(おちえん) 室内床より一段低い縁側
・筏縁(いかだえん)
縁板の接手を不規則に配置して張った縁側
・回り縁(まわりえん)
建物や部屋の二方以上にめぐらした縁側
・土縁(つちえん) 土間仕上げの縁側
・竹縁(たけえん) 竹を並べて張った縁側
●外縁のメンテナンス
理想の「外縁」が出来上がったら、1年に1回程度、最初に
塗ったものと同じ性質の屋外木部用塗料でメンテナンスを。
紫外線や害虫から木材を守ってくれます。
木の風合いを損なわず、再塗装が容易な含浸タイプの塗料(ステイン)がおすすめです。
家づくりで縁側を考えるときは、四季を通した快適性を得るために、植栽や外構デザインを後回しにせず、
間取りとともに敷地全体で計画しましょう。窓を開く時間が増える夏場は、特に快適に過ごしたいものです。
大切なプライバシーの確保と防犯対策も忘れずに!
縁側を設ける方角の特徴は?
■ 東側・北側の縁側 : 建物の影になる部分が多く、春〜秋まで快適です。
■ 北側 : 真冬以外は快適です。北庭の植栽を葉表に正面から眺められます。
■ 南側・西側 : 冬は日当たり良く暖かいですが、夏は暑くなるので日除けが必要です。
●陽のあたる方向に落葉樹を
夏の直射日光を遮るため、庭に落葉広葉樹を植えましょう。
木陰が心地よい涼をもたらしてくれます。冬は葉が落ちて日差しが室内奥まで届きます。
●適度な深さの軒を設ける
日照角度を考慮した深さの軒を出すことで夏の強い日差しや雨を防いでくれます。冬は太陽が低いので、室内まで日差しが入り暖かく過ごせます。軒を出すことが
難しい場合は、庇や簾、オーニング、タープなどでも日除け効果が期待できます。
●グリーンカーテンを作る
日射を遮り赤外線を反射し、さらに蒸散作用によって気温上昇を抑えます。朝顔やゴーヤ、へちまなど育てる楽しみも。
●風上にビオトープ、打ち水
風上にビオトープなどの水場を作ると、加湿冷却作用で水上を通った空気の温度が下がり、涼風が生まれます。水場がなくても打ち水をすれば、気化冷却により地面の温度を下げる効果があります。
●虫除け対策を
夏場に困るのは日射しだけではありません。昔ながらの蚊とり線香をお気に入りの蚊遣器にいれて風上で焚きましょう。1つで約6畳の広さをカバーできます。
一昔前の縁側は、家庭での特別な行事において、欠かせない「出入口」として使われていました。
自宅での葬儀や法事の際、僧侶は沓脱石(くつぬぎいし)で草履を脱ぎ、縁側から上がって縁側から帰りました。
婚礼の日には、花嫁が「出戻らないように」と生家の縁側から出立し、嫁ぎ先で縁側から入るという風習もありました。
家の縁に造られた板敷きスペースである縁側。本来、外に対して開かれた日本建築では、縁側は内と外を無理なく
融合させるなくてはならない存在です。動線経路としての機能だけではなく、雨・風・日差しなどの自然現象に対し、
室内との柔らかなクッションの役割をはたします。訪れた人を気軽に迎え、もてなす場としても便利でした。
部屋の開口部を開け放てば、多目的に使える「あいまいさ」という魅力は、住む人に癒しや安らぎを与えてくれます。
ライフスタイルが変化する時代に、日本の家ならではの縁側は過去の遺物となってしまったかのようです。
ですが、縁側は人と人、人と自然との縁をつなぐ場所。そこから広がる豊かな暮らしとともに、後世にも
大切に残していきたい日本家屋のしつらえのひとつです。