日本人の暮らしに密接に関わってきた「軒」
写真は愛媛県大洲市に建つ国指定重要文化財「臥龍山荘」の「臥龍院」。
農村風寄棟の平屋建てで数寄屋造りの名建築です。美しい庭と調和する茅葺屋根の深い軒が印象的です。
このように、深い軒は古くから続く日本建築の特長のひとつ。初夏になると軒下でツバメが巣づくりをして、親鳥がえさを運び子育てに精を出します。
ツバメが巣をつくる家は縁起がいいという言い伝えもあります。軒下の干し柿は秋の風物詩。畑でとれた野菜や果物を干したり、冬じたくの薪を積み上げたり、風鈴やてるてるぼうずを吊るすなど、軒下は日々活用され、日本人の暮らしと密接に関わって来ました。近年は軒がほとんどない住まいも珍しくありませんが、改めて軒のある住まいの魅力やメリットについて「雨楽な家」の実例を交えてご紹介します。
軒とは一戸建て住宅の屋根のうち、外壁や窓、玄関などより外側に出っ張り、突き出ている部分のことを言います。
建物よりも突き出ている軒が雨や雪、日差しを遮り、
建物を守る傘のような役割を果たします。
軒の先端部分を「軒先」、軒の下部分のバルコニーなどの空間を「軒下」、軒部分の下の面を「軒天」と言います。
近年増えているのが、水平またはほとんど勾配がない「陸屋根」の、軒がない住まい。軒がない分コスト削減や
シンプルでモダンなデザインにすることができますが、軒があるかないかで建物の耐久年数にも大きく影響します。
軒は機能的にも空間的にも大きな役割をもっているのです。
●日差しの調整
夏場の強い日差しが窓や外壁に当たらず室温の上昇を避けられます。
また、直射日光による家具や床材の色あせや劣化が軽減されます。日射角度の低い冬は日差しを室内に入れてくれます。
外壁上部より屋根が突き出ているので、太陽光や雨風の影響を直接受けにくくなり、外壁を保護することができます。
軒が窓の上方向にあることで雨天時の雨除けの役目を果たし、窓から室内への雨水の吹き込みを防止します。じめじめとした梅雨時にも窓を開けて気持ちよく過ごせます。
軒の出があることで、天気や季節を問わず過ごせる縁側やテラスといった、外と内をゆるやかにつなぐ半屋外として、リラックス空間や作業スペースとしても活用できます。
夏の強い日差しが室内に入るのを遮り、冬の低い陽ざしは室内まで届くよう計算された軒の出。冬場にたくさん雪が降る地域でも、壁に雪が直接当たるのを防いでいます。
軒下の空間は、狭くてあまり有効な使い方ができないと感じている方も多いのではないでしょうか。
しかし、土地や家族の生活スタイルに合わせ室内との繋がりを工夫したり、あるいは少し大きく軒を伸ばすことで、その半屋外空間を幅広く、色々なかたちで使うことが可能となります。
軒下を有効活用して、家の中だけでなく家の外も楽しめる快適な住まいをつくりましょう。
家族のみんなが集まるコミュニケーションの場、子どもたちの遊び場にも。
軒裏を見上げると杉板が素朴な味わいを見せ、太い垂木(たるき)が構造美を表しています。
光や風を感じられる「内」と「外」の緩衝スペースとして活用。
室内の安心感と、室外の開放感の両方が楽しめます。
●玄関アプローチ
軒下空間を雨に濡れない玄関アプローチとして活用。
ガレージとつなげると雨の日の車の乗り降りが快適で、外観デザインもより印象的になります。
軒の機能を最大に活かせる深さは90cm、約半間といわれます。
居住地域の降雨量や建物の高さなどにもよりますが、日照角度を考えると理想的な深さです。
90cmを超えると、次のようなデメリットが生じてしまいます。
①耐風性が弱まる
風を逃すことができずダイレクトに受けてしまうため、屋根の劣化が心配されます。
②居住面積が狭くなる
軒を深くすると住居スペースが狭くなり、極端なものは外観バランスも悪く見えてしまいます。
③工事費が高額になる
深ければ深いほど施工費用や材料費がかかるため工事費が高額になります。
住まいの顔にもなる深い軒は、ご家族の快適な暮らしに役立ち、住まいの耐久年数を延ばしてくれます。
敷地面積・居住面積との兼ね合いもありますが、家づくりの際には、ぜひ取り入れていただきたい日本の文化のひとつです。